3日間、ご一緒に。で人を感化する「The Week」マジック
こんにちは。益田美樹です。ニュースレター「From THE WEEK」にご登録いただき、ありがとうございます。
ニュースレター「From THE WEEK」9号は、環境啓発プログラム「The Week」の日本語字幕版で吹き替え・ホスト役を担当した高田久代さんへのインタビュー(前半)をお届けします。「The Week」は、私にこのニュースレターを始めるきっかけを与えてくれた催しです。(詳しくは概要ページをご覧ください)
「何それ?」
「一度も耳にしたことがないんだけど」
そう思う人も少なくないかもしれません。実は、日本語字幕版の開催が始まったのは、昨年から。それでも、国内でこれまでに延べ300人程度が参加しているそうで、プログラム参加を機に、個人で取り組みを始めたり、始めていた活動を広げたりする人も出てきています。
おおもとの公式サイトによると、このプログラムは、米英仏独にフォーカスして作られています。しかし、今や11の言語に翻訳され、世界の7000以上のグループが実施。参加者は5万5000人を超えています。触発された人たちが身近なコミュニティで開催し、そこで「いいな」と思った人がまた新たに自身のコミュニティに向けて開催する…という、小さな循環の輪があちこちで起こっているようです。日本でも、そういう動きがこれから見られるもしれません。
では、具体的にどんなプログラムなのか。私が参加した昨年の説明文を以下、紹介します。
気候変動や生き物のことなど、映像を通じて環境問題とわたしたちのつながりを深く知り、そして参加者同志で語り合う、1週間のオンラインプログラムです。プログラム名が示す通り、1週間のうちに3回集まるという、少しユニークな実施方法をとります。「ティール組織論」で世界的に著名なフレデリック・ラルーさんとパートナーのヘレンさんらが始めた英語のプログラムで、オンラインで映像を一緒に観て、その後30分〜40分程度で振り返りやグループディスカッションなどをします。
1週間に同じメンバーで3回集まるということ。そして、その人たちと一緒に動画を見て、対話をしていくということ。私にとってはそうした仕組み自体も新鮮で、参加を即決しました。
説明文にあるように、プログラムは本来英語で実施されています。そこで、オリジナルプログラムに参加した日本人の有志が、フレデリックさんたちと連絡をとって了解をもらい、日本語字幕版を作りったのです。
今回のインタビュー相手の高田さんは、その有志の一人で、職場であるグリーンピース・ジャパンの中で企画を形にし、日本の人たちがプログラムに触れる機会を作りました。その高田さんに、今回、日本語版を始めた経緯、日本版を試行してみての感想などを伺ってみました。前半、後半に分けて2週にわたってお届けします。
ジレンマを吹き飛ばすプログラム
――「The Week」は米国がスタートのプログラムです。高田さんはどのようにしてお知りなったのですか。
2023年の夏、今から1年半くらい前のことです。グリーンピースのことを応援してくださっている外部の方から、「面白そうな外国のプログラムがあるのだけれど、関心があったらどうですか」と誘っていただきました。それまでは全然知りませんでした。ウェブサイトの短い紹介動画を見てみたら、すごく面白そう。1週間に3回もあるんだ、とも思いましたが、せっかくのご縁なので参加してみました。それがきっかけです。
その時のホスト役の方は、長く日本にお住いのアメリカ人。「The Week」をご自身が体験されて「すごくいい」、「日本の人にも見てもらいたい」と思われたものの、あいにく日本語版がない。そこで「英語が分かり、こういう話題に関心がありそうな日本人」を誘って開催しようとされていて、その方のお友だちの一人が、グリーンピースの人もどうかなと思って声をかけてくれたんです。
私が参加した時のメンバーは、5、6人。私にとっては全員が初対面で、開催はオンラインでした。けれど、毎回会って話しているうちに、お互いに「今回も会いましたね」という感じでお話できたり、自分が思ってもみなかったようなアングルからのコメントが出てきたりして、すごく面白いなと思いました。
もう一ついいなと思ったことは、グリーンピースが日本でやっているような活動がほとんど全部入っていた、それが一つのつながっている物語として語られた、ということです。課題解決のためにどうしたらいいのか、ということも最後に語られるし、それが日常にもつながっていると理解できるメニュー展開になっていました。
お話も難しいことだけじゃなくて、それもよかったです。そして、何よりも、進め方がとてもオープンでインクルーシブ。これはグリーンピースが体現したいような価値価であり、私個人としてもとても共感するような価値観でした。
――例えばどのようなことでしょうか。
私はグリーンピースでもう20年ぐらい働いていますが、気候変動とかプラスチックとかを取り上げる場合、なんというか、説教臭くなったり、難しいとか勉強みたいになったりとかしがちです。気候変動のことを取り上げると気候変動のことしか言えないというようなこともあります。自分の知識としては、気候変動は人権にもつながっている。森林、海、農業にもつながっている。でも、それらを全部うまいこと話せない、伝えられない、何か細切れみたいにしかお伝えできていない。本当は一つのつながった現象なんだという理解が進まない、そこまでなかなか行けないというジレンマを感じていました。
ところが、「The Week」では、1時間の映像を初対面の人と見てしゃべる、ということを3回やるだけで、そこがクリアできる。それがすごいと思いました。そして、動画の中のホストのお二人(フレデリックさんとヘレンさん)が、ジョークを言ったり、「私たちもこうでした」とちょっと告白したりしながら、「とにかく一番やりやすいとこから(解決に向けた行動を)やりましょう」と呼びかけるところも本当に共感しました。こうした勇気づけられる、共感を生むアプローチもすごく勉強になりました。

2024年にオンラインで開催した「The Week」で、明るい表情を見せる参加者たち。緑の枠内にいるのが高田久代さん(グリーンピース・ジャパン提供)
――「The Week」の日本語字幕はどのように作られるようになったのでしょう。
英語で参加し終えたときに、ご一緒した人たちと、「これ、やっぱり日本語で日本の人にも届けたいよね」「そうだそうだ」みたいになったんです。ミーティングをして、最初は日本語版を作りたい、となったんです。英語から日本語への単なる翻訳版でななく、日本の事情を踏まえた内容の動画(日本語版)を新たに作るという話です。
ただ、日本語版を作るとなると、台本、構成、収録…と大変大掛かりになっていきます。そこで、今あるものを活用する案にシフトしました。オリジナル動画は欧米の内容ではありますが、十分に日本の人に共感を生むだろうとの考えからです。
「The Week」の本部とやり取りは時間がかかり、すぐには進みませんでしたが、先方からは日本での展開について「いいね」と好意的に言ってもらえて、具体的に動き始めました。
一緒にオリジナル英語版に参加した人の中には、プロの同時通訳の人がいて、その方たちがまず、同時通訳での開催を独自のコミュニティで始めました。ただ、この長さの通訳は、ひとりではとても耐えられない。プログラム実施時に毎回、複数人の同時通訳者にお願いする必要があり、全員のスケジュールを合わせるのが大変です。
そういう事情から「だったら吹き替えでできないか」となりました。予算もあまりないなか、Google検索したりしてどうすればいいか調べたところ、Zoomの録画機能でできるのではと思いつきました。
――なるほど!
益田さんが参加されたときに、ご覧いただいた私がしゃべっている(吹き替えている)動画。あれは全部私のコンピュータとiPhoneだけでやったんです。お金を一切かけず、自分でしゃべっている。なのでお試し版の動画ということにして、使いました。
本当はスタジオを借りて録音したり、編集したりした方がよいのでしょうけれど、作った当時、この「The Week」をどれだけ展開できるか未定でした。お金もかけられず、人に頼むのも…という感じで、とりあえず、自分でやってみたんです。
まず、最初に参加した時にご一緒した一人が、AI文字起こしで、オリジナル版の英語スクリプトを作ってくれました。それを同時通訳者の人など英語が分かる人たちがざーっとチェックし、出来るだけ短くしてくれました。私はそれを受け取り、Zoomで本編動画を再生しながら、読んで録音していきました。
必死の吹き替え、ワンテイク1時間
ところが、読みと動画のタイミングが全然合わない。本編動画の英語に合わせて、スクリプトを読むのですが、読む分量が長すぎて合わないんです。それで、さらに短くなるように全部見直し、何回も読む練習をしました。本編動画の登場人物が早くしゃべって、間が空いているところもあるので、そこをうまく合わせられるようにしました。
自分で編集ができないし、途中で止めたりするとおかしくなるので、ワンテイクで撮ることにしました。一回に1時間。1人で集中して、ずっとしゃべりました。間違えないようにするだけでなく、咳もできず、水も飲めない。本当に必死でした。
最初の吹き替え版は、「THE WEEK」の試行時に使ってみた後、気になるところがあるので、もう1回録音し直しました。録音の場所は、職場や自宅を使ったんですが、途中で「ピンポーン」という訪問の音が入って、初めからやり直しということも。近所のビジネスホテルにこもったり、出張先のホテルで録音することもしました。すごく大変でした。
このようにいろいろ手探りでしたが、「The Week」は、グリーンピースのプロジェクトの一つ「グリーンテーブルシネマ」として、2024年8月、10月に2回、11月の合計4回実施できました。
いろんなご縁があって、今年も少しやろうかなと思っています。例えば同時通訳で行った「The Week」のほうに参加してくれた人の中で、プロのラジオパーソナリティの方がいて、その方が「日本で広めたい。自分も何かしたい」と言ってくださったんです。
(後半に続く)
※カバー画像は、「The Week」公式サイト掲載の動画(The Week in two minutes)から抜粋しました。
編集後記
「The Week」の公式サイトには、参加者の声がたくさん掲載されています。一度でも参加したことがある人なら、どの言葉にも、大きくうなずくのではないでしょうか。例えばこのような。
罪の意識ではなく、たくさんの具体的なアクションがこのプログラムにはあふれていました。そして、それらのアクションはきっと楽しいものになり得ます!!! 気候変動に関する動画を見て楽観的に思えたのは、これが初めてです。
次回のニュースレター「From THE WEEK」は、高田さんのインタビューの後半です。日本で実施してみてどうだったか。高田さんの言葉をお楽しみに。
今回も週をまたいでの配信となりました。
今週もどうぞよい一週間になりますように。
2025年2月17日
益田美樹
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