全国オーガニック給食フォーラムを取材して① 「正直、ショックだった」
こんにちは。益田美樹です。ニュースレター「From THE WEEK」にご登録いただき、ありがとうございます。
ニュースレター「From THE WEEK」1号は、第2回全国オーガニック給食フォーラム in 常陸大宮 で取材してきたことを、写真を交えてお届けします。
第2回フォーラムの盛り上がり、の片隅で
第2回全国オーガニック給食フォーラムは11月8日、茨城県常陸大宮市で開かれました。全国から集まった行政、JA、市民団体などの担当者・個人が、普及に向けての課題や、推進に向けてのノウハウ、思いを共有。更なる発展を誓うメッセージに大きな拍手を寄せました。会場は、笑いやどよめきが起こるなど、コンサート会場にも似た一体感がありました。

第2回全国オーガニック給食フォーラム in 常陸大宮の会場(撮影:益田美樹)
参加者は会場912人、オンライン240人。さらには全国にサテライト会場が39カ所設置されていました(数字は主催者発表)。東京が会場となった第1回は、1200人が参加、全国のサテライト会場は62カ所でしたので、数だけ比較すると、第2回はやや減少に転じています。
ただ、会場が東京駅から電車を乗り継いで2、3時間かかる地方都市であることを踏まえると、むしろこの参加者数にはムーブメントの高まりを感じる人が多かったのではないでしょうか。現に、世界で潮流となってきたオーガニック給食は、統計資料や各種政策を見ても、日本で拡大スピードを上げています。
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ただ、私がこの取材で最も印象深かったのは、その盛り上がりではなく、話を聞かせてくれたある有機農家の言葉です。
「正直、ショックだった」
大きな拍手の余韻が残る会場の出口付近で、この男性は、私に感想を問われて即答しました。会場の盛り上がりとはくっきりと対照をなしているコメントだったので、耳を疑い、興味を持ちました。
彼は、オーガニック給食自体には、大きな希望を持っていました。公共調達(学校給食)という受け入れ先が決まっていたら、有機野菜も安心して作れるからです。「ショック」と言ったのは、このフォーラムに登壇した、オーガニック給食の導入済/予定の市町村は、ほぼ例外なく、首長やJAトップが積極的に引っ張っていたからです。「自分の街では、首長やJAに陳情に行っても全く積極的な態度が見られない」「これではいつまでたっても導入されない」と危機感を覚えていたのでした。
(ここまでは、ニュースサイトJBpressで公開した記事「オーガニック給食が拡大中!子どもに安心・安全なだけじゃない、持続的な農業・街づくりのカギに」に書いていますので、詳しくお知りになりたい方は、ご覧ください。)

ロビーに掲示された「オーガニック給食マップ」などに目を通す参加者ら(撮影:益田美樹)
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(ここからは、上記記事に盛り込めなかった部分です。)
この有機農家の男性からは、さらにこんなことも聞きました。行政とJAのトップが前向きに「ならない」、もしくは「なれない」理由についての考察です。彼からのテキストメッセージをそのまま引用します。
首長は単価が上がる分を誰が出すのか?保護者か?自治体か? 自治体が出すにしても盛り上がって来ないと出せない等。農協は有機農産物を取り扱っても卸先が現時点では特に無い事。また、化成肥料、農薬が売れなくなると組織的に困る等 については有機物原料の肥料を作って販売すればいいと思いますが、新たに変えること、おそらく変化する事が煩わしいような空気感もあります。 首長は保護者の理解や保護者からの要望が出てくると動き出しやすそうですし、 農協も肥料の買う側の農家が化成肥料は嫌だ有機肥料が良いとなればころっと変わると思います。 が、それが今日、明日では変わらないので、変わるまでは体勢は変えない!っといったスタンスの様に見えます!
今は共有されるノウハウも充実してきていることから、導入決定後の実働のハードルは少し前と比べると、低くなっているようです。実際、ある有機農業の技術指導者は、フォーラムのプレイベントの中で、「(技術的には)できます」と断言していました。ですから、オーガニック給食導入の、より本質的な課題は、この有機農家の男性が言うように、トップの行動スイッチを入れることだと言えるかもしれません。同様の悩みを抱えている農家は少なくないと想像しました。
このフォーラムに登壇したあるJA職員も、こんな話を披露していました。ドキュメンタリー映画『夢見る給食』を視聴したことをきっかけに、オーガニック給食を地元に導入したいと言う思いを強く持った。組織内で訴え続け、トップを動かし、そして組織が動き出した―――。

会場で熱心にメモをとる参加者(撮影:益田美樹)
行政やJAを動かすのは、市民や個々の農家のプッシュの力。オーガニック給食の”作り方”があるとしたら、”手順1”には、そうしたひとり一人の行動が欠かせない。有機農家さんは、そう考えて、現状をトップのせいだけにせず、打開策も考えようとしていました。例えば、オーガニック給食を導入している市町村に、行政区をまたいだ販路を作っていくなどです。いったん導入した市町村は、安定供給を図るために、足りない部分があればより広い範囲で周辺農家と協力関係を結ぶ必要が出ています。上手く縁がつなげられたら状況を変えられそうだ、と彼は話していました。
編集後記
今回紹介した有機農家さんには、子どもが3人います。子どもたちの学校給食に、自分がつくった有機農作物を使ってもらおうと働きかけを続けてきたものの、未だ実現には至っていません。一番下の子が、学校給食を卒業するまでに間に合うか。「正直、ショックだった」と言う発言には、保護者としての苦渋も込められていました。
次回のニュースレターも、第2回全国オーガニック給食フォーラムにまつわる話題をお届けします。
明日12月8日は、有機農業の日でもありますね。
素敵な週末をお過ごしください。
2024年12月7日
益田美樹
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